toggle
2016-10-17

THE OYATSU Vol.7|進化する日本酒体験

o71a

GUEST|GEM by moto / 千葉 麻里絵(ちば・まりえ)
岩手県盛岡市出身。大学で化学を学ぶ傍ら、日本酒を多く扱う居酒屋でアルバイトをする。卒業後、3年間のOL体験の後、飲食店で働く夢を諦められず、新宿の「日本酒スタンド酛(もと)」にオープニングスタッフとして入社。 入社後、利酒師の資格を取得し、日本酒への独自のアプローチを磨きながら、三年で店長に就任。さらに、これまでにない化学的な理論で日本酒を突き詰めることにより、蔵元との深い意見交換を繰り返す。そうした経験を活かし、『日本酒と人は宝物』をコンセプトに2015年、恵比寿に「GEM by moto」をオープン。国内では飲食店初となるマイナス5度で日本酒の熟成が可能な氷温冷蔵庫を設置し、日本酒の徹底管理を行う。 現在は、店長として店に立つ傍ら、日本酒の魅力を世界に発信すべく、イタリアン・フレンチ・中華など幅広いジャンルの飲食店とのコラボレーションを通して活躍の場を広げている。
GEM by moto|http://ameblo.jp/gem-by-moto-ebisu/

 

日本酒の「ニュースタンダード」を作るGEM by moto

大谷:時間が来たので始めます。今日は、日本酒がテーマです。ゲストは「GEM by moto」の千葉麻里絵さんです。

千葉:みなさん、こんばんは。恵比寿で日本酒のお店をやっています。今日は、日本酒が好きな方やそうではない方を含めみなさまに日本酒の魅力を伝えていければと思っています。よろしくお願いします。

森枝:こんばんは。THE OYATSUのゲストコーディネートを担当しています。代沢にある「Salmon & Trout」というレストランをやっています。あとはお店のコンサルタントとしてレシピ開発などいろいろやっています。

大谷:司会を務めさせていただきます、301の大谷です。301は、企画やデザインなどクリエイティブの仕事をしている会社です。「THE OYATSU」は、会場となっているFabCafeとのコラボとして生まれたもので、クリエイティブの視点からフードをどのように捉えていくかを考えていくプロジェクトです。本日は、よろしくお願いいたします。一杯目として日本酒をお配りしたのですが、この解説をまずお願いします。

 

o72

 

千葉:みなさんにウェルカムドリンクとして提供したお酒は、秋田県の「新政」というお酒です。お店では「No.6」という銘柄で出しているもので、スパークリングの柑橘系のものをお出ししました。

大谷:なぜこれを選んだんですか?

千葉:月曜日の疲れた夜に、いいかなって(笑)。どうでした? おいしかったですか?

(会場頷く)

大谷:みなさん頷いてますね(笑)。「GEM」では、「日本酒のニュースタンダード」というコンセプトを掲げています。お店の紹介を含め、どういう意味があるのかお話していただこうと思います。

千葉:店名の意味から説明すると、「GEM」は、宝物という意味です。宝物と言うと、英語ではジュエリーという言葉がまず思い浮かぶと思うのですが、ニュアンスとしては身近にある大事なものというような温かいイメージが「GEM」という言葉にはあります。転じて日本酒は宝物という意味を込めています。われわれ飲食店は、作り手さんが作ったお酒をお客さまへと提供しているのですが、グラスによって味は変わりますし、温度によっても変わります。それに、どの食べものと合わせるか、どんなタイミングで提供するかによっても変わってきます。そういった体験を届けられるようお店づくりをしています。

大谷:「ニュースタンダード」というコンセプトはどういう考えがあるんですか?

千葉:日本酒は、次の日に悪酔いするとか、日本酒をあまり飲まないお客さまにとっては、どちらかというとネガティブな印象のあるものだと思っています。そんなイメージに対して、新しい体験をお店で提供することで払拭したいんです。最近は、雑誌などでも日本酒が取り上げられ始めてブームになっていると感じる部分はあるのですが、それでもお酒全体で見るとまだまだです。

大谷:ガラス張りの外観など、お店の作りでそういった考えが反映されている部分はあるんですか?

千葉:簡単な言葉で言ってしまうと、オシャレに見せたいという部分はありました。日本酒専門店というイメージではなく、お酒全体のなかでおいしいものを探すと、日本酒がありましたというお店作りにしたいと思っていて、外から見てなんのお店かわからないような外観を目指しましたね。

 

o73

 

大谷:実際に来るお客さんの層はどうですか?

千葉:駅から近くないので、フラっと来るお客さまは、近所に住んでいる方だったり、口コミからが多いです。それに、若い女の子とか、今まで一人でお店に入れなかった方が多いと実感しています。

大谷:いままで日本酒を飲まなかった方も来る?

千葉:そうですね。メニューに詳しくないので、お任せでお願いしますという方も多いです。

大谷:なぜ来ようと思ったんですかね。

千葉:どうなんですかね(笑)。ラベルがかわいいとかも結構大きい理由だと思っていて、雑誌で見かけたりしたのかもしれないですね。飲むまではどんなものかわからないので、目で見たことだったり、女性がやっているお店だから入りやすそうということがきっかけになると思います。

大谷:なるほど。先ほどおっしゃっていたように、日本酒を普段から飲んでいない人の目線から言うと、どこかしらネガティブな要素を感じてしまうものが日本酒にはあると思います。「アルコールが強い」とか。それから、うまい日本酒があると知ったとしても、過去のイメージを転換すること自体は、意外と難しいんじゃないかと僕は思いました。だからこそ、「うまい」だけではない、体験として新しいものと感じてもらえる方が良いと感じています。

今回のイベントタイトルには「日本酒体験」という言葉を入れていて、「GEM」で提供されていることも、体験に近いものなんじゃないかと思っています。今回は、そんなことを中心に話していこうと思っています。

 

074

 

ロジックで紐解く日本酒の広がりと深み

大谷:トークの流れをトピックとして書き出しました。まず「日本酒はサイエンス」。これは、なんとなく雰囲気で語られていた日本酒が、実は科学的なアプローチがあるということを紹介します。次に、「日本酒は自由で現代的」。クラシックだと思われている日本酒に対して、そうではない部分があるというお話。そしてOYATSUタイムを挟んで、懇親会となります。

まず最初のトピックから。「SAKE KARTE」というものをみなさまにお配りしたのですが……。

千葉:これめっちゃ頑張って作ったんですよ(笑)。

大谷:本番前まで修正を加えていたんですよね(笑)。日本酒は、ワインなどと違ってあまり論理化されていない部分があって、だからこそよくわからないもので近寄りがたいという印象になることがあると思います。そういうこともあって、「論理化しましょう」とお願いをして、「SAKE KARTE」を作ってもらいました。普段のお店では、日本酒を飲んだことのないお客さんに対して、どんな論理で提供しているのかというお話を聞いてみたいと思います。また、それを、どのようにこの「SAKE KARTE」に落とし込んでいったのかということも含めてお聞かせください。

 

o75

 

千葉:正直に言うと、お客さまひとりひとりの顔を見て考えたいので、このカルテを作ること自体がイヤだったのですが(笑)。それなのに、なぜカルテを作ったのか、この意味は何なのかということを伝えようと思います。

このカルテは、普段の好みというよりも、今何を飲みたい気分なのかが分かるようになっています。これでひとまず、デートでわかったふりをしてしまうメンズたちのためになるんじゃないかなと(笑)。紙にすることで、自分の好みと向き合えるんじゃないかと思いました。

というのも、「辛口で」と注文されることがあるのですが、これって実は曖昧なもので、数字で言うと世に出ている9割は「辛口」にあたるものなんです。「辛口をください」と言われるとどうしようと困ってしまうのが5年前くらいからありました。これを見ていただいた方は気づくかもしれないのですが、そういう理由もあって、このカルテには「辛口」という言葉は入れていません。

質問を見ていくと、似たような質問がいくつかあると思います。これはよくアンケートで使われているのですが、同じ質問を別の言葉で繰り返し聞いていくことで、人間の記憶の曖昧な部分に対して、「やっぱり甘いものが好きだったのかも」とか、自分はどの味が本当に好きなのかということを再確認してもらえるような作りになっています。

大谷:「風邪の日にお酒を飲むと〜」とか、一言コメントが入っているのはどんな意図があるんですか?

千葉:一度、スタッフにこのカルテをテストしてもらったときに、「甘いと言われても、それが香りなのか味なのかわからなくて難しい」と言われて(笑)。確かにそうなんですよね。科学的なことを言うと、香りで甘くする要素と味で甘くする要素は完全に作りが違うんです。日本酒の場合、ある程度酵母によってどんな香りかは選択できます。味を作る場合は、麹菌を使ったりとこちらも決まっています。だから、そういう部分も知ってもらいたいと思ってコメントを書いてみました。

大谷:食のプロ視点から見ると、森枝くん的にこのカルテはどう?

 

o76

 

森枝:いや、すばらしいと思います。

大谷:作ってみて思ったのですが、カルテ結果の部分にあるお酒のラインナップがここからさらにマッピングされていると面白そうですよね。自分が選んだものは、どの系統なのかということが図になるとさらに分かりやすくなりそうだと思いました。

森枝:マッピングって二次元の縦軸と横軸で表されることがよくあるけど、味ってそういうものじゃないと思う部分はあるかな。もう二次元じゃないのかもしれないです。

大谷:どういうことですか?

千葉:時間軸とかも関係してくるので、それが加わると、また変わってきますよね。あ、そうだ。カルテ結果がAになった人はいますか? ……少ないですね。

大谷:Aは、日本酒をよく飲むタイプですね。

千葉:あとはCになった人はいますか? あー……そうなんですよね。AとCは、マニアックな人が該当するはずで、この人たちに対しては、お酒をどんな温度で体提供するかということや、熟成度合いがどのくらいかという話にまで及んでいくので、このカルテでは対応しきれないんです。

大谷:でも一応、これは「GEM」で飲めるお酒のラインナップになっているんです。だから、これを持って行けば、ひとまずOKということですよね?

千葉:いや、「GEM」に来たら、普通に話しましょうよ(笑)。

大谷:そうですね(笑)。雰囲気ではなく、実は論理化できる部分があるということをきちんと言語化していけば、お客さんに対して説明できる言葉を作っていけるんじゃないかという試みのスタートしてこのカルテを作ってみました。

 

o77

 

進化した現代日本酒の料理との科学反応

次は、「ペアリング」のお話。これは、「Salmon & Trout」と「GEM」とのコラボをした際の写真です。料理とお酒の科学反応だったり、日本酒でどういう実験がなされていたのかということをお二人に話していただければ。

森枝:フレンチをはじめとして、ペアリングとして日本酒を使うことがいろいろな料理で増えてきたのですが、僕がやりたいと思ったのは、どの料理が日本酒と合うのかというのを緻密に検証したいということ。今までは、かなりざっくりとした基準しかなかったんです。

大谷:「Salmon & Trout」は、普段どういう料理を出しているんですか?

森枝:僕の最初の料理経験が、シドニーの「Tetsuya’s」というレストランから始まりました。オーストラリアの料理って想像がつかないと思うのですが……。シェフはフレンチを経験した日本人で、オーストラリアの食材を使いつつ、日本のエッセンスを加えるという料理を作っていました。そんなふうにいろんな国の要素や、それぞれの国の味のバランスを取り入れながら僕も料理を作っています。このコラボでは、いろんな要素が入った料理に対して、どの部分に日本酒が引っかかるのかということを実験しているものです。

大谷:このコラボは、フードとドリンクのどちらを起点にして作っているのですか?

 

o78

 

森枝:フードです。

千葉:これが初めてのペアリングでした。事前にメニュー名を教えてもらっていたのですが、実際に食べたのは当日。その場の発想でお酒を合わせていきました。ビンが二本ある写真がありますよね。実は、片方が赤ワインなんです。これをわざと常温放置してセメダインのような香りを出してから、「竹鶴」とブレンドをしています。「仙禽」という日本酒では、ビールとハーフ&ハーフで割るということもしました。あとは、「杉錦」を燗酒にして、ネパールの山椒を振っています。

森枝シェフが作った料理は、酸味だったりスパイスを効かせたものが多かったのですが、その時に思ったのは、10年前だったら合わせるお酒が無かったということ。以前から日本酒にとって酸味は悪であると考えられていました。ただ、海外の料理に触れる機会の多かった30代、40代の作り手さんが増えてきて、日本酒に酸味があってもいいんだという志向になってきたんです。とくに、先ほど挙げた「仙禽」が先駆けで当時はすごく酸っぱいものという印象でした。最初は賛否両論ありましたが、それからだんだんと酸味のある日本酒が増えてきて、今では、わりとスタンダードなものとなっています。そんな背景があったからこそ、森枝シェフの料理とのペアリングが成立したのかなと思います。

 

o79

 

大谷:さらに聞きたいと思ったのは、違う種類のお酒をブレンドするのはどんな理由があるのですか?

森枝:先に料理の説明をすると、焼きなすの皮と紫蘇をシートにしたものと、その下に、クミンを効かせたピューレ、焼きなす、鱧を合わせたものです。スモーキーな香りと、魚の白身となすのほわっとした食感が特長です。

千葉:ちょっと難しい話をしていいですか?(笑)。まずこの料理に対して、なにを求められているかということを考えます。今回の場合は、なすの香ばしい要素に、熟成した味わいのお酒を合わせたくて「竹鶴」を選びました。2年熟成をかけて、かなりまったりとした味わいになっています。ただ、紫蘇って香りが強いんですね。それに合わせようとすると、酢酸エチルというしぼりたてのフレッシュな香りが欲しくなったんです。ならば、それぞれの要素を持った日本酒をブレンドすればいいという話になると思うのですが、日本酒の味は、持っているトーンがどれも似ているので、どちらかの味や香りが強いと片方が負けます。そこで、ワインを使うことでトーンの異なるものを合わせつつ、さらに放置させることで酢酸エチルを出し、欲しい香りを日本酒に加えることができました。こんなかんじで大丈夫ですか?(笑)。

大谷:専門的な話になりましたね(笑)。他にもイベントをやったんですよね。

千葉:同じく「Salmon & Trout」と白金台のフレンチレストラン「TIRPSE」と蔵元さん3蔵とコラボして、決め打ちで料理とお酒を合わせました。あとは、二子玉川にある「寿司 㐂邑」という熟成寿司のお店とやりました。これは、握った瞬間に合うお酒を30秒以内に考えて出すというドSなコラボです(笑)。

大谷:ひとまずこれで、「日本酒はサイエンス」を終わりにして、OYATSUタイムに移ろうと思います。

 

o710

 

日本酒から生まれた実験的 “チーズ” ケーキ

大谷:ちなみOYATSUのタイトルは?

千葉:「チーズケーキ」です。

大谷:意味深にシンプルな名前……。事前に出している情報では、「日本酒で作るチーズケーキ」という情報しか出していないので、実際にどんなもので作られているのかは誰も知らないという。それでは、種明かしをお願いします。

千葉:これは一応、チーズケーキというコンセプトで作ってはいるのですが、実際のところ、一切、チーズを使ってないんですよ。普通は、クリームチーズとレモンの果汁と生クリームなどを使うと思うのですが、チーズとレモン果汁の部分を日本酒に置き換えています。素材は、日本酒の濁酒(どぶろく)をさらに発酵させた濁酢というものを使っています。濁酒は、お米などを発酵させて清酒する前のどろどろの状態のものを言います。

大谷:なぜその発想に行き着いたんですか?

千葉:カルテには「メロンっぽい」など果物に形容した言葉に置き換えて説明した部分があるのですが、それと同じように日本酒が持っている味や香りを使って、チーズケーキを再現できるのかということを証明したいと思いました。数字上では、甘みがあってクエン酸があって乳酸があってというふうに味の構成が同じなんですよね。まったく同じにはならないのですが、どこまで再現できるかを試してみました。

大谷:森枝くんは、開発中に何か話したりしたんですか?

森枝:濁酢は、面白い食材ですが、単体だと個性の強い味だったので、火を入れることによって食べやすくなるんだなというのは発見でしたね。

 

o711

 

大谷:ちょっと感想をお客さんにも聞いてみましょうか。過去の回でゲストとして参加していただいたパティシエの後藤さんがいらっしゃっているので聞いてみましょう。

後藤:チーズが入っていないというのはすぐ分かってしまったのですが(笑)……フルーツのピューレを入れたかのような酸味があってすごく面白いと思いました。

大谷:ありがとうございます。それでは、チーズケーキに合わせたお酒の解説をお願いします。

千葉:富山の「ますいずみ」というものです。お水の代わりに日本酒を使って作る貴醸酒ですね。それによって甘みが増すのですが、4年間熟成をかけて、ハチミツのような甘みになります。今回のOYATSUは酸が強いので、それに負けない甘みをぶつけています。

 

o712

 

四合瓶・ラベル・グラスー現代の感覚にフィットする日本酒の形

大谷:「日本酒は自由で現代的」というトピックに移りたいと思います。一見、クラシックだと思われている日本酒を変えていくために、考えていることをお聞かせください。

千葉:「GEM」ではよくある一升瓶ではなく、四合瓶をメインに置いています。その理由は、お客さまが日本酒を買って、お家に置いてもらいたいということが裏テーマとしてあるからです。

 

o713

大谷:四合瓶は、一升瓶よりもひとまわりサイズの小さいボトルのことですね。

千葉:現状、酒屋さんに置いてある日本酒は一升瓶の方が多いんです。ただ、お客さまからしたら、冷蔵庫に入るサイズ感としては四合瓶のほうが都合はいいですよね。では、なぜ一升瓶が多いかというと、飲食店側の需要が大きいという理由があります。一升瓶の方が、安いうえに量が多くてコスパ的に良いんです。お酒を売る酒屋さん的には、一般のお客さまよりも、飲食店に融通を効かせていることが多いです。そうなると、作り手さんも自然と一升瓶を作るという構図が出来上がっていきますね。この業界に長くいると、お客さまからの声で、四合瓶がなかったから欲しいものも買えなかったとか、買ったはいいけど入れるところがなくて味が変わってしまったという声を聞きます。それにもかかわらず、お客さまの声を聞かなくなってしまうような空気が業界内にはあ

冒頭でも触れましたが、日本酒がブームになっていると言いつつも、本当のブームを起こすには、家庭の冷蔵庫のなかに他の種類のお酒とともに並んでいることが一番大事だと思います。そして、そのためには、飲食店側から四合瓶を作ってくださいと伝えることが必要だと思います。なので、うちのお店では四合瓶を蔵元さんにお願いしています。

あとは、インスタグラムなどフォトジェニックなことも大事だと思っていて、写真に収まるかわいいサイズ感というのも四合瓶ならではだと思います。それに、四合瓶ではオシャレに見えたラベルでも、一升瓶でやるとなぜか違って見えることがよくあるんです。大きな漢字とかだと相性がいいんですけどね。

大谷:そういうラベルは、最近になって増えたものなんですか?

千葉:やっぱり作り手さんの世代交代が大きいと思います。まずは手にとってもらわないとダメだし、目で見て興味を持ってもらうことが必要ですよね。特にSNSを考えると、おいしいだけでは引っかかりが足りないかもしれません。

大谷:それに関連して、日本酒っぽくないグラスを使って提供していますが、それはどのような考えでやっているんですか?

千葉:日本酒にはこぼし酒という提供の方法があると思うのですが、私は日本酒をこぼしたくないんですよね。あとは、お酒によってグラスを変えているのですが、初めて来たお客さまにとって提供されたお酒が一番輝くような出し方をしています。お客さまが常連になったら、今どういう気分で飲みたいかということを考えて選んでいます。

 

o714

 

マイナス5度で届ける新しい日本酒体験

大谷:これは現代的な話とも言えるのかもしれないのですが、11/5(土)にイベントを行ったんですよね?

千葉:新木場のClub ageHaという場所で「ENTER.Sake」というイベントに参加しました。リッチー・ホウティンという世界的に有名なDJの方が主催しているイベントのVIPルームで日本酒を提供するという依頼があって、カクテルを提供しました。

大谷:どんなものだったんですか?

千葉:クラブイベントが夜中ということもあったので、いままでにないテンションの上がるものを作りました。春夏秋冬のイメージに合わせて、見た目にも華やかなものになったと思います。

大谷:日本酒を崩さない範囲で遊びを入れていくというか、自由さを足していくということができた事例なのかなと思いました。もうひとつ、マイナス5度で保存できる氷温庫の話を。

千葉:一坪くらいのサイズの氷温庫で、日本で初めて作りました。もともと酒蔵は持っているのですが、サイズがもう少し大きいんですね。熟成酒、古酒という言葉を聞くことがあると思うのですが、そういうお酒は茶色くて飲みづらいというイメージがあるかもしれません。そういうお酒のなかにも魅力的なものはあって、氷温庫で保存するとイヤな香りが出ず、色が変色しないないまま、きれいな状態で保存することができるんです。そんな角が取れたような新しい側面を持った熟成酒を伝えたくて、氷温庫を作りました。

森枝:現代的な側面で言うと、やっぱり小さいサイズで、しかもマイナス5度を保てる技術ができたからこそ可能になったことだと思いますね。

千葉:かなり昔は冷蔵庫自体がなかったので、「冷」という言葉は常温を指していました。そういう環境だったので、古酒も自然と茶色くなっていって、枯れているお酒と言われるのが一般的だったんです。それに、マイナス15度以下になると、日本酒は凍ってしまうんですね。そうなると、熟成が止まってしまう。ゆっくりと熟成させていくためには、マイナス5度が最適だと科学的な検証で示されていて、その温度を保つ環境を作れるのは現代ならではなのかなと思います。

 

o715

 

大谷:そろそろまとめに入っていこうと思ったのですが、僕が初めて「GEM」に行ったときに、日本酒に対して持っていたネガティブなイメージが全て排除されたことにびっくりしたんですね。でも、これはあくまでスタート地点だと思っていて、これから実際に日本酒が普段の生活に浸透していくにはどうすればいいのかということを聞いてみたいと思います。

例えば、クラフトビールであれば、たとえ味の違いが深くわからなかったとしても、その商品が生まれたストーリーを含めて楽しむというような体験がありますよね。

 

o716

 

千葉:私と知り合ったお客さまに対しては、どういう人が作っているのかということを伝えるようにしています。蔵元さんがどういう思いで作っているのかということを知ってもらうと、共感して飲んでくださるお客さんもいますね。

大谷:作り手の思いを感じられる日本酒が増えると、より浸透していくかもしれませんね。時間が来たので、ここで終わりにしたいと思います。本日はありがとうございました。